本来なら長生きは喜ばしいことです。しかし、超高齢化社会となった現在の日本では、長生きすることがリスクといわれるようになりました。今回は、長生きすることがなぜリスクといわれているのかを深掘りしつつ、3種類の長生きリスク対策の方法を紹介します。安心して老後を迎えられるよう、ぜひ役立ててください。
長生きリスクとは?
長生きリスクとは、長生きすることによって老後の生活資金が不足し、貧困に陥る可能性を指した言葉です。2019年に大きな話題になった「老後2,000万円問題」は記憶に新しいですが、そもそも「老後2,000万円問題」とはどのようなものだったのでしょうか。
老後2,000万円問題の発端は、金融庁の金融審議会が2019年6月に発表した「高齢社会における資産形成・管理」についての報告書でした。2,000万円の根拠は、総務省の2017年家計調査において、高齢夫婦無職世帯の平均的な家計収支が月5.5万円の赤字だったこと。5.5万円×12ヶ月×30年という計算で約2,000万円老後資金が不足するといわれていたのです。ちなみに、高齢夫婦無職世帯とは、夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯を指す言葉です。
生活水準や資産状況などは人それぞれのため、全ての人の老後資金が一律2,000万円不足するわけではありませんが、生きている間は予想外の出費が必要になることもあるでしょう。たとえば、若い頃は健康でも年齢を重ねるにつれて不調を感じることが多くなり、病院にかかる頻度が増すのが一般的です。また、介護サービスを利用したり、施設に入所したりといったことも考えられます。十分な貯蓄がある人でも、突然老後の資金不足に陥る可能性はゼロではないのです。
長生きリスク対策が必要になった背景
長生きリスク対策が必要になった背景には、
・平均寿命が延び続けている
・平均所得が変わらない中、税金や社会保険料の負担が増している
という2つの原因があると考えられます。
延び続ける平均寿命
日本の平均寿命が年々延び続けていることはご存じのとおりです。厚生労働省が発表した2020(令和2)年の簡易生命表によると、男性の平均寿命は81.64年、女性の平均寿命は87.74年でした。今後も平均寿命の延びが止まることはなく、2060(令和42)年には男性84.19年・女性90.93年になると予想されています。
なお、国民年金制度が施行され、国民皆保険がスタートしたのは1961(昭和36)年のこと。当時の平均寿命は男性66.03年・女性70.79年で、当時の定年は55歳、年金受給開始年齢も同じく55歳でした(60歳定年が努力義務化されたのは1985年、年金受給開始年齢が60歳に引き上げられることが決定したのは男性1954年、女性1985年のことです)。つまり、1961年当時の男性の場合、定年から平均寿命までの期間は15~16年だったという計算になります。2022年現在、年金受給開始年齢は原則65歳で、70歳までの雇用確保の動きも高まっています。
この約60年で年金受給開始年齢が10年後ろ倒しになりましたが、それ以上に平均寿命が延び、老後と呼ばれる期間が長くなりました。この期間が長くなったということは、公的年金制度の維持が困難になっていることや、個人でより多くの老後資金を準備しておく必要性が高まっていることの大きな原因の1つと考えられます。
税金や社会保険料の負担増
以下に示すのは、厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査の結果です。短時間労働者を除く常用労働者の平均賃金を20年前と比較すると、給与水準はほとんど変わらないことがわかります。
| 男性 | 女性 | 男女計 |
2001年 | 34万700円 | 22万2,400円 | 30万5,800円 |
2020年 | 33万8,800円 | 25万1,800円 | 30万7,700円 |
次に、国民所得に対する税金や社会保障の負担率を比較すると、この20年で約10%も国民負担率が増加していることがわかります。
| 租税負担 | 社会保障負担 | 計 |
2001年 | 22.7% | 13.8% | 36.5% |
2020年 | 26.3% | 19.9% | 46.1% |
少子高齢化により労働者人口が減っていることや、昨今のコロナ禍での財政支出が増えていることを考えると、国民負担率はこれからも増えていくと予想されています。収入に対して税金や社会保険料などの比率が増えると、自由に使えるお金が少なくなり、より老後資金を準備するのが困難になっていくのは当然のことです。さらに、物価の上昇や金利の低下などのマイナス要因も相まって、まとまった老後資金を貯められない人が増えたことで、長生きリスクが顕在化したのです。
長生き対策として検討したい3種類の備え
先述の2,000万円問題の箇所でも触れたように、年金などの公的制度だけでは長生きした場合の備えとして十分ではありません。個人ができる主な対策としては預貯金・保険・投資の3種類がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあるため、どれか1つを選んで集中的に取り組むのではなく、3つをバランスよく取り入れて長生きした場合に備えることが大切です。次の段落からは、預貯金・保険・投資それぞれの特徴とメリット・デメリットについて解説します。
1.預貯金で長生きリスクに備えるという選択肢
長生きリスクへの備えとして、最もイメージしやすいのが預貯金です。預貯金には金融機関への預金のほか、タンス貯金やへそくりなども含まれます。今すぐにでも始められる手軽な長生きリスク対策といえるでしょう。
預貯金で長生きリスクに備えるメリットとは?
預貯金で長生きリスクの備えるメリットは、保険や投資と比べ、預貯金は安全に運用することができることです。不要な出し入れをしなければ、基本的に元本が減ることはなく、もし金融機関が破綻したとしても、預金保険制度で全額あるいは一部が保護されるので安心です。特別な金融知識がなくても気軽に始められることもメリットといえるでしょう。簡単に引き出したり切り崩したりすることができるので、老後の備えはもちろん急にお金が必要になったときにも心強い存在です。
預貯金で長生きリスクに備えるデメリットとは?
預貯金で長生きリスクに備えるデメリットとして、運用効率の悪さとインフレリスクが挙げられます。
低金利が続く昨今、銀行にお金を預けていてもほとんど利息は付きません。資産が自動的に増えることは期待できない分、老後のための大きな資産を築くためには、できる限り若いうちから長期的な計画を立ててコツコツと預貯金を続ける必要があります。先述の2,000万円も月5万円ずつ積み立てれば、約33年で達成する計算になります。しかし、預貯金は容易に引き出せてしまうため、貯金が苦手な人がこの方法で不足する老後資金を全て準備しようとするのは現実的ではありません。
また、老後の生活資金として十分な額を貯められたとしても、実際に老後を迎えてから預貯金が目減りしていく様子を眺めることは大きなストレスになるでしょう。物価が上がることで、想定以上の老後資金が必要になる可能性も考えられるため、他の方法でそのデメリットを補う必要があるのです。
2.保険で長生きリスクに備えるという選択肢
民間の個人年金保険など貯蓄型の生命保険を活用するのも長生きリスク対策として有効な方法の1つです。日本人は保険好きといわれ、約8割の人が何らかの生命保険に加入しているため、保険で長生きリスクに備えている人も多いのではないでしょうか。そのメリット・デメリットを確認してみましょう。
保険で長生きリスクに備えるメリットとは?
貯蓄型の生命保険で長生きリスクに備えるメリットはその確実性です。養老保険であれば、万が一の場合には死亡保険金を、長生きした場合には満期保険金を受け取ることができ、途中解約をしなければ支払った保険料よりも多くの保険金を受け取れる保険商品は低金利の2022年現在でも数多く存在します。万が一保険会社が倒産した場合も、生命保険契約者保護機構により一定の契約者保護が図られる点も安心です。
また、保険料の支払いは口座引き落としやクレジットカード払いが一般的なので、預貯金が苦手な人でも取り組みやすい方法といえます。途中解約することで元本割れする商品が多いため、それが抑止力となり、計画的に老後の生活資金を積み立てることができるでしょう。
さらに、生命保険料控除の対象であることもメリットです。一定の条件を満たした場合、所得から支払った保険料(上限年12万円)を控除でき、所得税率に応じて所得税と住民税が安くなります。
保険で長生きリスクに備えるデメリットとは?
保険で長生きリスクに備えるデメリットとして、預貯金同様の運用効率の悪さと途中解約やインフレにともなうリスクが高いことが挙げられます。
例えば、老後資金の準備によく用いられる個人年金保険には確定年金・有期年金・終身年金の3種類がありますが、このうち長生きリスク対策として有効なのは終身年金のみです。終身年金は、決まった期間だけ年金が受け取れる確定年金や有期年金と違って、一生涯年金が受け取れるタイプの保険ですが、その分終身保険の保険料は高額です。また、有期年金と終身年金は、年金を受け取れるのは被保険者が生きている間に限られているため、もしも早くに亡くなってしまった場合は、支払った保険料を回収できないというリスクもあります。
さらに、保険は先述の預貯金と同様に、インフレに弱いという点にも注意が必要です。生命保険のほとんどは、将来受け取れる保険金額が契約時に決まっています。物価が上昇したとしてもその金額が変わることはないため、長生きリスクに対応できない可能性が考えられるのです。そのほか、途中で解約した場合は元本割れのリスク(返戻金が支払ってきた保険料の総額を下回る)があることや、低金利の現在は利回りが期待できないことも、デメリットとして覚えておきましょう。
3.投資で長生きリスクに備えるという選択肢
投資で得られる利益にはキャピタルゲインとインカムゲインの2種類があります。キャピタルゲインは安く買って高く売ることで得られる差益、インカムゲインは保有期間中に得られる利益のことをいいます。さまざまな投資商品がありますが、長生きリスクに備えるためには、キャピタルゲインではなく、インカムゲインを狙った投資を選択することが有効です。インカムゲインには、株式の配当収入や不動産の家賃収入などがあります。
株式投資と不動産投資それぞれで長生きリスクに備えるメリット・デメリットを解説しましょう。
投資で長生きリスクに備えるメリットとは?(株式投資の場合)
株式投資で長生きリスクに備えるメリットは、高い運用効率が狙えることと、預貯金や保険と違ってインフレに強いことです。株式を保有している間、企業の業績が良ければ配当金や株主優待などのインカムゲインが得られるものもあります。
また、インカムゲインとは少し異なりますが、NISAやiDeCoの登場で株式投資を始めるハードルは下がったと考えられます。NISA(少額投資非課税制度)とは、投資で得た利益を一定期間かつ一定額まで非課税にできる税制上の優遇制度です。iDeCo(個人型確定拠出年金)は老後の生活資金を蓄えるための私的年金制度で、その掛け金は全額所得控除の対象となり、節税ができる分、リスクが下がり、運用効率を高めることができる手法です。投資初心者の場合は、投資できる商品が長期積み立てに向く商品に限定されているiDeCoやつみたてNISAを活用して株式投資(投資信託)にチャレンジするのがおすすめです。
投資で長生きリスクに備えるメリットとは?(不動産投資の場合)
不動産投資で長生きリスクに備えるメリットとして、運用効率の良さと長期的な家賃収入(インカムゲイン)が見込める点、そして株式投資同様、インフレに強いことが挙げられます。第三者に貸し出す不動産を購入するため、ハードルが高いと思われがちですが、物件購入には不動産投資ローンを利用するのが一般的です。ローンの返済は家賃で賄うので、家計を圧迫する心配は少なく、保険や株式投資と違って手元にまとまった資金がなくても、借入をして投資を始めることが可能です。そして、ローンを組む場合には団体信用生命保険への加入が条件となることが一般的なため、万が一の場合はその効果で残債がゼロになり、借入がなくなった不動産の家賃収入はそのまま遺された家族の生活保障となります。そうすることで、無駄な生命保険に加入しなくてもよくなり、生命保険料の負担が減るケースも多くあります。
不動産投資は賃貸経営を行うことを意味しますが、物件管理や入居者の対応などを管理会社に委託すれば、オーナーが日常的に行うことはほとんどありません。株式投資など他の投資と違ってほとんど手間がかからないため、会社員や公務員などの副業としても人気です。定年前にローンを完済すれば、家賃収入のほとんどが利益になります。需要の高い都心の物件を選べば、長期的に家賃収入を老後の生活資金に充てることができ終身年金代わりになりますし、売却して現金化することも比較的容易に行えます。
投資で長生きリスクに備えるデメリットとは?(株式投資の場合)
株式の売買は原則として100株単位で行われます。たとえば、株価が1,000円だとしたら、購入するには10万円が必要です。しかしながら、株式投資には元本の保証はありません。株価はさまざまな要因で変動するため、大きな利益が期待できるのと同時に、大きな損失も覚悟する必要があるでしょう。最悪、企業の倒産によって投資資金を全額失ってしまう可能性もあります。さまざまな投資商品があるなか、株式投資はハイリスク・ハイリターンに分類される商品です。
そして、配当金で大きなインカムゲインを得ようと考えると手元にまとまった資金があり、その高いリスクを許容する必要があります。
例えば、配当目的で人気の銘柄の1つ、日本たばこ産業(2914)の2022年1月6日の終値は2,329円、2021年1株当たりの配当金は140円の予想です。この株から年間84万円(月7万円)の配当金を得たいと考えた場合、約1,400万円(6000株分)もの資金が必要になる計算です。
投資初心者はいきなりこのような株式投資に手を出すのではなく、NISAやiDeCoを利用してリスクの少ない投資からスタートすることをおすすめします。
投資で長生きリスクに備えるデメリットとは?(不動産投資の場合)
不動産投資で長生きリスクに備えるデメリットとして、空室リスクがあることと、そして実物資産のため災害リスクがあり、メンテナンス費用がかかる点が挙げられます。空室が続き家賃収入が途絶えてしまえば、物件を維持するには自己資金を投入することになります。また、不動産には流動性が低い(現金化しにくい)という特徴がありますが、人口が多く賃貸需要が高い大都市圏で物件を選べば、空室リスクや流動性のリスクは軽減できるでしょう。また、長期的に家賃収入を得るには、耐用年数の長いRC造のマンションがおすすめです。さらに、火災保険や地震保険に加入しておくことで、万が一の場合のリスクを軽減することが可能です。
長生きした場合に備えてしっかりと準備しておこう
健康で長生きできればそれに越したことはありません。しかし、十分な備えが出来ていなければ、長生きすることで経済的に困窮してしまうる可能性もあります。老後にゆとりある生活をするために、今回紹介した預貯金・保険・投資をバランスよく取り入れて、老後資金を準備しておくことをおすすめします。
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