老後資金や教育資金など大きな金額の資金を準備するうえで、『利回り』を意識して積み立てることはとても重要なことです。生命保険においては『解約返戻金(もしくは解約返戻率)』が利回りを知るうえで重要な指標の1つです。しかし、「保険証券に記載されている解約返戻金についての説明をしっかりと読んだことがない」「加入している生命保険を解約するといくら解約返戻金が受け取れるのかわからない」という人も多いのではないでしょうか。
本記事では、生命保険の解約返戻率と貯蓄型の保険の利回りの相場について解説します。また、保険を活用して教育資金や老後資金を準備するメリット・デメリットに加えて、生命保険に代わりに検討したい選択肢も紹介いたしますので、どのように老後資金や教育資金を準備するのが自分に合っていそうか、考えてみてください。
生命保険の解約返戻金とは?
『解約返戻金』とは、生命保険を解約する際に、保険契約者に払い戻されるお金のことです。
掛け捨て型の定期保険には原則解約返戻金がなく(あっても極少額)、解約返戻金がない保険を「掛け捨て型の生命保険」と呼びます。
解約返戻金があるのは終身保険と養老保険が中心で、解約返戻率が高い生命保険には学資保険、年金保険などの「貯蓄型の生命保険」があります。満期時に解約返戻率100%の保険であれば、払った保険料と同額の解約返戻金(満期保険金)を受け取れるという意味で、数字が100%より大きくなるほど利回りが高い保険と判断できます。
《生命保険での計算方法》
解約返戻率=解約返戻金÷支払保険料×100
年間利回り={(解約返戻金-総支払保険料)÷払込期間}÷総支払保険料×100
貯蓄型保険の利回りの相場は?
まずは、学資保険と個人年金保険という代表的な貯蓄型生命保険の解約返戻率の相場を確認しておきましょう。
学資保険の解約返戻率の相場は約70~110%
学資保険の解約返戻率は、約70~110%が相場と、決して利回りが高いとはいえません。比較的解約返戻率が高いといわれる学資保険でも、2024年現在販売されているものでは、最大110%程度のものが多く、積立期間で割って利回りを計算すると年利0.5%程度で、定期保険に入れておくよりはマシといった程度の利回りです。
人気の学資保険の中には、解約返戻率が100%を大きく下回るものも多くあります。
解約返戻率が100%を大きく下回っているのに人気な理由は、親の死亡保障や子の医療保障などが学資積み立てとセットになっているためです。手厚い保障が付いている学資保険ほど解約返戻率が低くなる仕組みです。
1つの学資保険で貯蓄と保障を準備できてお得感があるかもしれませんが、別々で加入したほうが安くなるケースも少なくありません。
個人年金保険の解約返戻率の相場は約100~110%
元本保証のある円建ての個人年金保険の解約返戻率の相場は約100~110%程度で、元本保証がある分、利回りはあまり高くない傾向にあります。個人年金保険の積立期間は、10~30年程度のものが多いため、年間の利回りは0~0.3%程度のものが一般的です。
外貨建ての変額年金保険であれば年利3~5%程度を目指して運用されている保険商品もありますが、そのような商品は年利マイナス3~5%になるリスクもあります。
生命保険は運用目的で加入するものではない
2段落で説明したとおり、元本保証があるものであれば年利で計算すると利回りが1%を切るものがほとんどで、学資保険などは解約返戻率が100%を切るものも珍しくありません。途中で解約してしまうと、払い込んだお金がほとんど戻ってこない設計になっている保険もあります。
安価な掛け捨ての死亡保険を活用すれば、30代男性の場合では月額1,000円程度で1,000万円の死亡保障を確保することもできます。一方で、学資保険は契約者が死亡した場合にその後の保険料の支払いが免除されるだけです。このように考えると、別で保険に入れば月額1,000円以下で準備できる程度の死亡保障を確保するために、ほとんど増えず、必要な時に引き出せないところにお金を置いておくのはもったいないと感じませんか。
生命保険は運用目的で入るものではなく、あくまでも万が一のための保障を目的として入るものと理解しておきましょう。
生命保険で教育資金や老後資金を準備するメリットは?
前述のとおり、教育資金や老後資金の積み立てに生命保険を用いるのはおすすめではありません。
しかし、もし次に紹介するメリットに魅力を感じる場合は、選択肢の1つに生命保険を検討してもよいかもしれません。
万が一の際に保険金を受け取れる
例えば、学資保険は、契約者である親に万が一のことがあった場合に、その後の保険料の支払いが不要になるという特長があります。そういう意味では、小さな子どもがいる家庭で、まだ十分な教育資金が準備できていない状態であれば、学資保険を検討する価値はありそうです。
ただし、保障が付いている分、利回りが低くなるため、保障が必要ない場合は、生命保険以外のより効率良く資産を積み立てられる方法を検討するとよいでしょう。また、前述のとおり、別で掛け捨ての生命保険に入ったほうが、効率的に大きな保障を準備できる可能性があるため、比較検討が必要です。
手間がかからない
生命保険は毎月保険料が引き落とされるだけで、申し込み後に契約者がやるべきことはほとんどありません。原則全て生命保険会社におまかせで、手間がかからないため、忙しい人でも無理なく取り組めるでしょう。
強制的に口座から引き落とされ、解約すると損をすることも多いため、解約の抑止力になります。貯金が苦手、口座に貯まっていたら引き出してしまうという人におすすめの方法といえるでしょう。
元本保証のある生命保険も存在する
利回りは低くなりますが、元本保証のある保険も多くあります。どうしても投資をして資金が減ることに耐えられないという人にとっては、数少ない選択肢の一つと考えられるでしょう。
生命保険料控除で支払う所得税・住民税が安くなる
生命保険の掛け金は生命保険料控除の対象となるため、最大12万円の所得控除を受けることができます。所得税率20%(年収700~1,000万円程度)の人の場合、住民税と合わせて最大3万6,000円の節税になる計算です。
手出しをともなっているため、節税のために保険に入るというのは本末転倒ですが、会社員や公務員の人でも取り組める限られた節税手段の1つですので、上手に活用しましょう。
生命保険で教育資金や老後資金を準備するデメリットは?
次に、生命保険で教育資金や老後資金を準備するデメリットを見ていきましょう。
高い利回りは期待できない
生命保険を活用して、教育資金や老後資金の積み立てをする場合、年利1%未満の保険が多いため、大きく増やすことは難しいでしょう。
ドルや豪ドルなど金利の高い外貨で運用するものなど、リスクを取れば大きく増やせる可能性がある選択肢も存在しますが、それは他の投資も同じです。
高い手数料がかかる
生命保険会社に運用を任せると様々な手数料がかかります。
利回り1%未満の商品が多い中、各種手数料を合計すると2~3%になる保険商品も珍しくありません。手数料の分だけ得られる利益が減ってしまうため、おのずと利回りは低くなってしまいます。
そのため、自分で運用できる人は自分で運用したほうが、より安い手数料で効率的に資金を積み立てることができるでしょう。
インフレリスクがある
元本保証のある生命保険なら、途中解約さえしなければ損はないと考える人もいますが、実は保険には『インフレリスク』があります。
インフレとは、物の価値が上がり、相対的にお金の価値が下がってしまう現象を指し、インフレが起こるとそれまで1万円で買えていたものが1万2,000円になったりします。
事実、昨今の物価上昇によって、大学の学費も必要な老後資金も増えています。ソニー生命が行った『子どもの教育資金に関する調査2024』でも、小学生から社会人になるまでに必要な教育資金の平均予想金額は、2022年1,377万円→2023年1,436万円→2024年1,439万円と徐々に増えていることがわかります。つまり、例えば貯蓄型の保険で15年後に1,000万円受け取れるから教育資金は安心と思っていても、実際は1,500万円かかってしまい全然足りないという状況に陥る可能性があるということです。
このように元本保証があるから安心とは言い切れません。生命保険を活用して長期積立を行う場合には、インフレの影響を受けることにより保険金額の価値が目減りすることを考えて検討しましょう。
途中解約をすると損をする可能性が高い
生命保険を早期解約すると、解約控除という違約金が発生します。早期解約では返戻率が50%を大幅に下回る保険も多く、少ない場合は0~20%しか戻ってこないことも珍しくありません。
もし、途中で解約しなければいけない可能性があるのであれば、貯蓄型の保険を活用して教育資金や老後資金を積み立てるのは避けたほうがよいでしょう。
生命保険以外で検討すべき選択肢は?
教育資金や老後資金を準備するうえで、生命保険以外にどのような選択肢があるのでしょうか。
1つずつ詳しく見ていきましょう。
貯蓄
普通預金や定期預金などを活用して積み立てる方法です。
保険と同様にこの方法で積み立ててもほとんど資金を増やすことができませんが、資産運用をする、しないに関わらず、誰もが検討すべき方法です。
預貯金のように、いつでも自由に使えるお金がないと、景気や会社の業績悪化で収入が減った、体調を崩して1ヶ月働けなかった、骨折をして1週間入院したなど、多少の収入減や支出増にも耐えられず、生活が困難になる可能性があります。そうならないためにも、最低でも3ヶ月分の生活費は必ず現預金として確保しておくようにしましょう。
投資信託
NISAやiDeCoを活用して教育資金や老後資金を準備する方法です。
NISAやiDeCoを活用すると、手数料を投資額の0.1%程度(年間)に抑えることも可能です。さらに、運用益に対して通常であれば約20%かかる税金がかかりません。
このように、手数料が安い投資信託を選び、非課税枠の範囲内で効率的に運用すれば、自分で銘柄を選ぶなどの手間はかかりますが、生命保険で高い手数料を取られる場合に比べて効率的な運用ができるでしょう。
不動産投資
投資用不動産からの家賃収入を教育資金や老後資金に充てる方法です。
近年の年金保険は10年確定年金など有期年金が主流ですが、長期的な需要が期待できる投資用不動産を活用することで、自分が亡くなるまでの年金の不足分を補うことが可能になります。もし、途中で亡くなってしまった場合も、終身年金保険であれば、被保険者が死亡すると年金がストップするのが一般的ですが、投資用不動産であれば遺された家族が家賃収入を受け取る権利を引き継ぐことができます。投資用不動産に付随する団体信用保険の効果で、万が一の際には、借入がゼロになるため、借金を家族に遺す心配もありません。近年では、がん団信や三大疾病保障付き団信など保障機能付き団信もあるため、生命保険に入らずして、効率的に死亡保障や医療保障を準備することも可能です。
さらに、投資用不動産はインフレ対策や相続対策としても有効です。
不動産がインフレに強いことは、物価が上昇している昨今、都内を中心に家賃が上昇していることからも明らかです。また、投資用不動産は現預金や有価証券よりも大幅に相続税評価額が低く、現金を投資用不動産に変えるだけで、相続税評価額が現預金や有価証券で相続する場合と比較して3分の1から5分の1ほどになることも珍しくありません。
非常にメリットの多い方法ですが、注意点もあります。教育資金や老後資金を目的として不動産投資をする場合は、長期的な需要が見込め、かつその需要や価格が安定している物件を選ばなければいけません。日本国内で不動産投資をするのであれば、長期的単身者の賃貸需要が期待できる都心の中古ワンルームマンションがおすすめです。
生命保険は保障が主目的の金融商品|貯蓄や資産運用とは分けて考えよう!
生命保険に加入する目的はあくまで保障を準備することで、貯蓄や資産運用目的で生命保険を活用するのはおすすめではありません。その理由として、高い手数料がかかる場合が多く、運用効率が悪いこと、ほとんど増えないのに途中解約すると損をする可能性が高いことなどが挙げられます。
1つの生命保険で、貯蓄も死亡保障も準備できるのは便利かもしれませんが、保障と貯蓄や資産運用を一緒に考えると、何にいくら払っているのかわからなくなる可能性も高まります。貯蓄と保障を一緒に考えて生命保険に加入すると、貯蓄目的で入っている○○保険に死亡保障もついていたはずだけど、いくらの死亡保障があるのか、受け取るための条件は何かを即答できないといったことにもなりかねません。
保険と貯蓄、資産運用は別々に考えた方が効率的です。保険は保険、貯蓄は貯蓄、資産運用は資産運用と分けて考えて、それぞれどの方法が自分に合っているのかよく考えましょう。
ジーイークリエーションでは、今回紹介した生命保険だけでなく不動産やiDeCo・NISAなどを組み合わせて、バランスよく資産形成することをおすすめしています。生命保険診断から年金対策、相続税対策など、幅広いサポートが可能です。どのような方法で老後資金や教育資金を準備すべきかまだよくわからないという方は、セミナーなどに参加し、勉強することから始めてみてはいかがでしょうか。